今月のお薦め本 



〜2005年 01月〜

                                                         
新しい年が明けまた新たな気持ちを切り替えてそれぞれのスタートをされる方々も多いことでしょう
昨年は思い返せば何故?どうして?こんなに人間って自然の前では無力なんだ・・・と
思い知らされた年でもありました

今年は旅を愛する方々が安心して発てる、そんな1年でありますように・・・
心から願わずにはいられません

どうぞ、この年が皆様にとって素敵な1年になりますように


さて、今回も様々なジャンルから英国物・・・をご紹介していきます

そして、来るべき時がきたら、すぐに飛び立てるように・・・

例え、今すぐ旅発てなくとも
読んでおいて損はありません・・・と思います!!




聖女の遺骨求む

〜修道士カドフェルシリーズ1〜



聖女の遺骨求む カドフェルシリーズ1

エリス・ピーターズ 著  教養文庫  ¥544+税  1990年11月初版




今年の始めは何時になく暗い年明けでもありました
それは私だけではなく、人の力ではどうにもならない自然災害を目の当たりにし、
人の力が如何に小さなものであることを
改めて思い知らされた年末を引きずっていたから・・・

しかし、このような自然の災害は今に始まったことではなく、
昔々から繰り返し受けていたこと
だから、様々な宗教という一つの救いをもとめる人々達の魂のなぐさめが必要になるのでしょう
その宗教ついて(私はまったくの無宗教です)私が学校の授業よりも、頭にするん!と理解する事が出来たのは
美術館の沢山の宗教画だったり、
今回ご紹介したい小説だったりするのです

すでにお気づきの方も多いと思いますが、
ご紹介の本・シリーズは現在は教養文庫社がなくなってしまったために
通常の本屋さんでの入手は困難です
しかし、古本屋さんや最近になってから
このシリーズを光文社さんが文庫出版にこぎつけています

教養文庫さんの海外のミステリ・ボックスシリーズの中でも
おそらく上位を占めるほどの人気ある長いシリーズだと思います
それだけに息の長いファンを持つこのシリーズが他社出版とは言え、
復刻してくれたことがとても嬉しいです 

  

『修道士カドフェルシリーズ』はこの1巻から20巻までと、
そしてその間に入る短編集もありますが
その1巻、1巻でお話しは完結します
しかし、最終話の20巻目まで読み終えると
登場人物はわかりやすい導入で各巻に登場してきますが、
半分はおなじみさんが占めていることに気がつきます

時は12世紀半ばウェールズに程近いシュッロップシャー州・シュルーズベリの
ネディクト会シュルーズベリ修道院で大切な薬草園をまかされている、
修道士カドフェルさんが主人公の歴史ミステリ小説です

年齢は57、58くらいで体をゆすりながら歩く、ずんぐりむっくりとした体に
修道士らしく頭の天辺はトンスラと呼ばれる、剃った頭
修道院付属の15年かけて自身の手で作り上げた薬草園がご自慢のカドフェルさん
(今で言うハーブ類ですね・・・)
そして、ウェールズ人の彼はウェールズ語に堪能ため、
何かと修道院や街で起こる大きな事件から小さな事件まで
国境近い街に持ち上がる問題に借り出されてしまうのです
(英語とウェールズ語は異なる為に国境近い街ではお互いの人々が行き来していたので
言葉の通じない人達との間の問題や諍いや国内の権力抗争にも影響が大きい地でありました)

しかし、このカドフェルさんは若いときには十字軍に参加し、
さらに聖地での沿岸警備の為に船長を担い、
イスラム教徒と船上で10年以上も戦ってきた強者です
ブラザー(修道士)になってからの彼の風貌からは
そんな人生を歩んできたなんて信じる人は多くはありません

しかし、静かな修道院生活と思いきや、
事件は時代ということを割り引いても様々な難題が持ち上がり
その一つ一つを俗世で暮らした経験からの、
その智恵や勇気で解決していく姿は
やはり単なる治外法権とも言える修道院生活一筋のブラザー達とは
一線を引いていることがよくわかります




作者のエリス・ピーターズは
本名をイーディス・パージェターといい、1913年生まれ

この第一作目が日本で翻訳され、出版された1990年にはまだご存命でしたが、
95年に惜しくもこの世を去りました
元々は本名で歴史短編小説を20冊近く書き上げたあとに誕生したのが、
このミステリへの挑戦だったわけです

別のシリーズでアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞を授与、
その後1977年よりこのカドフェルさんシリーズの第一作目を発表
本書の『聖女の遺骨求む』の後は、次々とシリーズは進み本国英国でも数々の賞を受けました
没後1999年にこのシリーズにて歴史ミステリに多大な影響を残した功績を称え
イギリス推理作家協会より最高の歴史ミステリ賞として
『エリス・ピーターズヒストリカル・ダガー賞』が新たに創設されています



本書はタイトル通り、修道院で聖女ウィニフレッドの遺骨を求めて、
その遺骨があるとされる
ウェールズの山へとカドフェルさんの一行は向かいます
何故その遺骨を求めたのか、というと当時は聖女の遺骨をその修道院の守護聖人として奉れば
そのご利益にあやかろうと巡礼者が押し寄せ、
修道院は潤うことができるから・・・・
現代でも参拝詣においてそのようなご利益のある有り難いものがあると参拝者が多くなり、
神社仏閣は恩恵を預かる事ができるのは国・時代問わず変わりません

そして、確かに“信じる者は救われる”通り、
祈ることで奇跡が起こる事もありうるのです
この時代はそんなことは当たり前と言わんばかり、
現在でも宗教の頂点はそこに尽きるのではないでしょうか・・・
この聖女の遺骨をそのウェールズから我が修道院へ招聘しようと遠征した、
旅するカドフェルさん一行は
時代の策略や普通の暮らしの人々の暗黒の部分に巻き込まれてしまうのです

シリーズの舞台は大半がシュルーズベリの街や修道院、
又は近郊の村や町々です
カドフェルさんは本国でも絶大な人気を得、
テレビシリーズになったり、(日本でもBSで一時放映されていました)
街への観光客の多くは現在も街のシンボルの一つである修道院を訪れたり・・・
街へのツーリストインフォメーションでも
このカドフェルさんを巡る街のツアーは一つの観光の目玉です
何しろ『カドフェルツアー』と称して
街のウォーキングツアーのマップが何種類も用意されていましたから 
かくゆう私も実はカドフェルさんに会いたくてこの街へ訪れました

本の中でいつも描写される街を取り巻くセヴァーン河
この河の橋を渡ると修道院があり、
街を見下ろす小高い丘の上にはお城がそびえ、
物語は全て遥か中世なのに、
彼を取り巻く世界は現代でも変わったところがないような・・そんな錯覚を覚えます
シュルーズベリという街は今も変わらぬセヴァーン河に囲まれ、
その川辺では牛が草を食み、
迷路のような小道は中世の面影を残す白壁と
太く黒い梁のティンバーハウスが傾き軒を連ねています

そんな街角からトンスラ頭のずんぐりむっくりとした姿の
ブラザー・カドフェルがひょっこり顔をのぞかせそうです・・・



    

物語を先に読んでから旅に出るか・・・?
旅で街を訪れてから本のカドフェルさんを知るか・・・?
これから旅に出よう、と思う方達へ
私は皆様へ是非お薦めしたいミステリベスト1なのです 









ニュージーランド楽園物語



ニュージーランド楽園物語

峯吉 智子 著  東京書籍  ¥1553+税  1996年10月初版



先ずはここで“ニュージーランド”という英国の旅に於ける本のご紹介という場所に登場させてしまったことを
深くお詫びしなければなりません
この1冊をご紹介するにあたっては私の個人的なお仕事の果てでのことなので・・・

昨年のクリスマスにご依頼いただいた来月ご出発のニュージーランド個人旅行は
約10年前から7年間企業の中において「オセアニア担当」として様々なご旅行手配をさせていただいた頃を懐かしく思い出す・・・
私にとっては正に降って沸いたような嬉しいお仕事の始まりでした

オセアニア担当とは言っても当時は約8割方が大きな大陸オーストラリアへのご旅行が占めていました
ですから、結果的にはこのお隣のニュージーランドへは訪れることなく、
全てをマニュアル通りに進める手配で進む事が出来た国・・・そんな国の一つでした
(旅行業界の社員はその担当する地域に渡航せずとも業務を進めなければなりませんから・・)


そんなこんなでオセアニアを離れてからの時間を埋める為と『業界』として御案内するのではなく
お客様の目線で考えることの為から自分がその国を旅をすることをシュミレーションするには
私の場合最初の取っ掛かりの一つには関係書籍に目を通す、ということ
(一見時間が掛かりますが、様々な角度からその国を見ること・知ることが出来ます)


年末図書館が開いているうちにと街中の分館も合わせて、かき集めたニュージーランド関係の中の1冊がこちらでした

もちろん、地理・生活・文化・歴史など1冊にニュージーランドを知る為の本を探してみると10冊以上の本が集まりました
何冊か参考になり、とても勉強になったのですが、
結局はそのご旅行のご依頼がキャンセルになった時に全ての資料と書籍に関してはその場で全てお片づけをした後も
どうしても最後まできちんと読み終えたくなったのはこの峯吉さんの1冊でした

峯吉智子さんは61年お生まれの同世代
フリーライターとして、女性誌や様々な執筆活動をされていらっしゃる方です
94年から1年間、一人息子さん同行でニュージーランドで生活され、
現地からニュージーランドに関する記事を発信されていらっしゃいました
その中にはニュージーランド航空の機内誌や何と今は無きラグビーワールド誌へも・・・
そして、彼女自身がニュージーランド・フレンドシップ協会の会員さんでもありました
(ニュージーランド・フレンドシップ協会というのは日本との架け橋を担う非営利団体です
昨年末惜しくも16年という長い活動を閉じられましたが、
ニュージーランドへいらっしゃったり、住まれたりする方々のお世話をしていました)

彼女の目を通しての、この国はただ単に『ニュージーランドは素晴らしいのよ!』と強調するだけに留まらず
もちろん!素敵と思わなければこの1冊はないわけですが・・一つ一つのテーマに対して常に客観的に見つめ、
そしてあらゆるものを深く掘り下げて、・・・だから、こうなった・・・ということが明確に正直に記されていること

そして、彼女の目を通した、この国の文化とも言える様々な各章が何よりも生き生きと描かれています

卒園式もすっぽかしてNZに同行させた、一人息子の談君はラグビー好きの母に進められ
ちびっ子ラグビー教室に入ったり、当時最強だったメンバーのカーワンに会いに混乱するスタジアムへ一緒に潜入したり・・・と
談君を通しての普通の暮らしで母としての目で見たものや・・・
果ては経験あるもう一つの国技と言われるヨットや本国英国でもお目にかかれないクラシック・カーについてと
幅広い分野にまでレポートをしています



この国は元を正せば先住民のマオリの人々が自分達の文化を継承しながら見つけた
“アオテアロアー白く長い雲がたなびく国ー”だったわけですが、
後から入植してきた白色人種(欧米人・パケリ)に少しづつ自分達のアイデンティティを脅かされ
国の中での変化を否応なしに請け入れざるを得なかった・・・
そんな歴史を持っています
世界最強と言われ、国技でもあるラグビーのオールブラックスにおいてもマオリの選手を見るたびに
この国においてはそのような各国が少なからず抱えている先住民族との食い違いは少ないに違いない・・と感じてしまうくらい
上手に白色人種(これには英国人やアイルランド人も含みます)とマオリとが折り合いをつけて暮らす、
羨ましいような国に・・・そんな国のイメージがありました
それは1840年にイギリスの指導者とマオリ族指導者との間に『ワイタンギ条約』が締結するに至ったから、と・・

しかし、結局はその条約にしてもパケリ側、マオリ側に記されている解釈に大きな隔たりがあったため
又、南島で金鉱が発見されたためにゴールドラッシュが起こり、白人人口の激増など様々な歴史があった為の果てでした
長く英国の植民地であった、この国が独立したのはまだ日の浅い1947年
しかし、英国との関係がまったくなくなったわけではありません
まだまだこの国の通貨にはエリザベス女王が顔をのぞかせていますから

本国英国以外で世界でも1番『英国らしい』と言われるのもこのニュージーランドです
実際に調べて手配していくうちに、“B&B”などの旅に於ける宿泊施設はとても充実しています
本家の英国よりも選択幅が広いのです!・・・これには想像以上でした

峯吉さんの描くこの国はそんな私達の概念を取っ払い、ニュージーランドという一つの国としてパケリもマオリも一緒
彼らの創り上げてきた文化や生活が全て“キィウィ風”一つ一つの文章からそんな気持ちが伝わってくるようでした

実はエベレスト初登頂のヒラリー卿(チームは英国でも彼はキィウィ)や
アイリッシュだとばかり思っていた俳優のサム・ニール(ニュージーランド出身)や
下のカードはちょと見にくいのですが、
英国中のポストカード屋さんでは良く見かける子供を花の中におき、
可愛らしい何にでも使えそうなカードは英国産と思っていたのに、
何と!このカメラマンの彼女(アン・ゴッジス)はオークランド在住のオージーであった・・という
私にとっては衝撃的な事実が幾つも彼女の本から出てきたのでした・・・

アン・ゴッジスのポストカード 赤いバラと眠る子供

まだまだこの国に関係した書籍は英国に比べるととても少なく、
情報もまだまだ充分我が国には伝わっていないように私には思えたのですが
それでも英国作家のトールキンによる“指輪物語”で一躍観光客の数が増加
お隣の国・オーストラリアに追いつきそうな勢いです


旅のガイドブックとしてのご案内には難しい1冊かもしれませんが、その国を知る・・ということにおいては
是非お薦めしたい1冊としてご紹介させていただきました・・
・・・そして著者の伝いたい事の深さが、私はとても好きな1冊になりました

そして、巻末のたくさんの参考文献としてのページには、“イギリスはおいしい”“ホルムスヘッドの謎”林望著が記されていたことに
とても一方的な親近感が沸いてきたのでした 


      







こちらのページに関しては、全て私の独断になります
お読みになっていただいた後のご感想は、
皆様それぞれに感じることに相違があるかと思います
少しでもお楽しみいただけたら幸いです
  





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