今月のお薦め本





〜2008年 11.12月〜

                                                         
今年最後の月です

この1年に読みたいと思っていた本は読破できたのか・・?
新しい面白そうな本を見逃してはいないか・・・?
そして、最も記憶に残った本は何冊あったか・・・?
今年の締めくくりはどんなジャンルの本になるのか・・?

残り少ない時間に様々な他愛もないことを思ってしまいます

しかし、どんな1冊も忘れることなく
何かが心に引っかかり、また次の旅へと繋がっていく
そんな本から旅へのリレーも面白い
平面な書面の文字から立体画面の旅経験へと・・・

そして、その1冊は
もしかしたら自分の一生の内で
最も大事なことを教えてくれるかもしれない・・・

さあ、今年はもう残りわずか

悔いなく読みこなせた年になっただろうか・・・?
そして、新しい年への新しい旅へ紡いでいくことができるだろうか・・・?









旅のかけらの残し方



旅のかけらの残し方




つるや ももこ著 アスペクト ¥1,429+税 2008年1月初版







手元に置いておきたくなる1冊です

このあっさりとした表紙は
一見ついつい書店でも見逃してしまいそうだけれど
それは逆にいつでも見えるところにあっても疲れない
ほこっとできるこの表はどんな時でもふと目が行ってしまう・・・
時間が経つにつれて“うまいな〜”と感じます

ぱらぱらと中をめくったときは
文章と雑貨雑誌にも似た写真がきれいだな・・・と
そこからこの本への興味が生まれました

そして、長い旅から帰ったときに
思い出したように再び手んみ取ってみた時は
やっぱり、こういう本は旅を始める前に読むべきだよな〜なんて
ちょっぴり後悔しながら開きました
(だって、旅の前ならばその“かけら”を上手に残せるかも・・なんて思ったのです)

しかし、初めてお目にかかる著者のつるやさんの文章に先ずは驚きました

それは、まったく気負いのない
体や気持ちにすとん、と飲み込まれるような文章だったから・・

慌てて本の最後の著者案内を見て二度の驚き!
書き始めの落ち着きや感じ方がきっと同世代であろう・・・と
勝手に思い込んでいた
(それは懐かしい昭和世代の私達の
のんびりとした空気をかもし出していたからです)

しかし、実際はまったく違うと言ってよいほど
一回り以上にお若いこの著者は
2000年から6年間全日空の機内誌『翼の王国』編集部で
取材・執筆を続けていらっしゃったライターさんでもありました

現在はフリーでいらっしゃって
絵・文章・編集とご活躍
この3点セットを軸に雑誌・広告・書籍などで活動中
旅周りは続いているとのこと

航空機内誌はあらゆる世代の方々の目を楽しませ、
これから赴く場所へどんな形の渡航でも
わくわく感がないわけはなく
そんな人々がその機内では必ず1回は手に取り
深さはそれぞれであっても
目を通すことが多い1冊

すっと入り込める文章と
素直な目線が何よりも好感がもてるもの、と・・・
そして、私のように飛行機に乗ったら
何時にもまして頭の脳みそは溝がなくなるほど延びきり
思考回路はますます小さくなる輩でも
フライト中盤になると
そろそろいつもの活字渇望症が蘇り
真っ先に座席前のポケットに手を突っ込んでいるのも毎回のこと

どれどれと手に取り
何時の間にか各航空会社のもう一つの顔とも言うべき
機内誌に頭を突っ込み読み入ってしまう・・
そんなときは頭にすっと溶け込むような文章が
目に優しく、頭には嬉しい

もし、つるやさんの文章を『翼・・』で見つけたら
どんな感じ方ができただろう、と想像するだに
きっと自然に体に染みこむように
読みいってしまうだろうと・・・

その機内誌時代にお目にかかれなかったのが
今更ながらちょっぴり残念にも思いました
(今まで渡航経験の中で残念ながら全日空さんでは
数えるほど・・1回しかないのです・・・・・悲しい・・ )


さて、本書の内容はタイトル通り
著者がその長い旅の取材で持ち帰ったものたちを
その後どのように残しているか、というお話

大きくは4つに分けられ
“かけらを綴る”“かけらを贈る”“かけらをあしらう”“かけらをまとう”

この4つのタイトル通り
旅で持ち帰ったそれぞれを
“綴ったり”“贈ったり”“あしらったり”“まとったり”

私は今まで旅というものは計画から始まり、
帰宅したらもう“終わっちゃったな〜”で
悲しい気持ちにもなったけれど
この本からは帰国して日常の生活に戻らざるを得なくても
つるやさんの示す4つは旅から帰ったところから
もう一つの『旅』が新たに始まることに気づかされました

出発する前はわくわく、どきどきで楽しさ一杯!
だけど帰国の空港に降り立ってしまったら
さあ!明日からまた日常!と切り替えてきた私は
旅毎に持ち帰ってきたものたちは懐かしいけれど
慈しむ、ということまでには行きつくことができませんでした

だから、この1冊からはそのものたち一つ一つをただただ飾るだけでなく
まるで鮎を食するが如く
頭から尻尾まで全て食べつくして完結、というものにも似ているようで
きっちり終えてあげてこそ
自分の中にも何時までも旅の余韻が残り
正に“一粒で二度美味しい!”

例えば最初の“綴ったり”の中の「足もとの宝物の話」では
飛騨高山に暮らし20年もの歳月
勤務する家具会社で製作の折
捨ててしまう余った木の切れ端を
小鳥に換えてその余り木を生き返らせている方のお話

著者はそのことからドイツのリネン工房を訪ねた時に
木の床にころがる裁断後の小さな布の切れ端を見て
勇気を出し工房の女主人に“いただいていいですか?”と尋ねたら
あきれるでもなく笑って“いいわよ”答えてくれた・・・
日本に戻ってからその切れ端をつなぎ合わせて
パッチワークのコースターを作り、
“小鳥”と同じように見事によみがえらせています

その作り方も案内してくれているのですが、
私にはそのものを作り換えらすこと、そのものよりも
思い切って女主人に尋ねた勇気や
それに対しての“いいわよ”という答え
やり取りそのものが何よりも嬉しかったのだろうな・・と・・・
コースターとして蘇ることは目に映り
見るたびに思い出せるけれど
その時のやり取りでの暖かい気持ちは
そのご本人だけの大切な思い出だと・・それはずっと心に残るもの
お金では買えない唯一無二の旅のかけらだと思うのです

もうひとつ“あしらう”では
旅先でついつい持ち帰ってしまうその土地の砂

私自身もついつい一握りの砂を
いくつもの場所からいただき持ち帰ってきました

その砂を使って手作り砂時計にする

目からうろこがぼろぼろでした

何て上手な残し方だろう・・・


もうした彼女の旅の残し方は
その土地、土地での普通に落ちているものを
何気なく手に取り、
自分の場所にもどったときにふと目を向けると
そんな何気ないものが実は1番旅の思い出として息づいている・・

それを上手に自分だけの思い出として
その一つ一つを丁寧に旅の仕上げとして残すと
何時までもその旅は色あせず何年経っても息づいています

全編を通しての写真もどこか懐かしく
穏やかな空気が流れているのも
著者の持つ気なのかもしれません

そして、作者独自のスクラップブックの作り方、
大切な友人達へのかけらのおすそ分けの作り方、
集めたものをちょっとした手加えで素敵な標本にもなる作り方などが
全編まばらに紹介されています


旅のお土産は
人の思いや
見たこともなかったその国や場所の日常のもの、
何気ない言葉や味、
もちろん写真1枚1枚が大切なものであることに
改めて思い出させてくれた1冊でもありました

是非、旅から帰ったときに手にしてめくってほしいな〜と思います

そうすると旅が終わった、とされる後々までも
どこかほこっとした気持ちになれるから不思議です




   


こちらのページに関しては、全て私の独断になります
お読みになっていただいた後のご感想は、
皆様それぞれに感じることに相違があるかと思いますが
少しでもお楽しみいただけたら幸いです
  



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