〜2014年 8･9･10月〜


日々秋に向かい涼しくなってくると
そろそろ毛糸類が恋しくなります



　　　　


少し早いのですが、
しかし！これから用意（手作り）しよう！という方には
すでに時遅し・・かもしれません

今日ご紹介したいのはニットの本

北の国イギリスではこれからの季節はニットが欠かせません

ロンドンですら日本の札幌と同じ緯度

北へ延びるこの国はこのニットがほぼ年間を通して
大事な衣類となります

この国全土を覆う緑の丘には羊が満載


　


彼らの“衣類”をいただき、素晴らしいニットに仕上げていく技術も
この国ならではの素晴らしいものを持っています

その技術はその土地それぞれに文化を持ち
身につけたニットがその地方を限定できるほど！

今回ご紹介したいそのニットの本は
英国領土最北端の諸島
「シェットランド」から



英国本土とシェットランド諸島の位置



もう15年ほど前にイギリス最西端の諸島シリー諸島を旅した時に
是非何時かその反対の最北端へ行ってみたい！と思いながら
その遠い距離感と厳しい自然の元
なかなか足が向けられない・・目標の場所でもありました


シェットランド　ラーウィック沖合　wikipediaより


しかし、英国はまだまだ行ってみたい場所もたくさんあり、
しばらく忘れかけていたシェットランドへの思いは
再びこの4部作の本から呼び起されることとなりました



シェットランドを舞台にしたアン・クリーブスの4部作（東京創元社）



英国の小説家アン・クリーブスがシェットランド諸島を舞台とした
4部作の小説で、
左から一作目は英国推理作家協会主催・ゴールドダガー賞（最優秀長編作品）に挙げられた
「大鴉の啼く冬」原題はRAVEN BLACK、
そして2作目「白夜に惑う夏」WHITE NIGHTS、
3作目は「野兎を悼む春」RED BONES、
そして、最終章「青雷の光る秋」BLUE LIGHTNING



シェットランドの厳しい風景



シェットランド諸島出身のペレス警部と
イングランドから移り住んだ画家フランが主人公となり
この島に住む住民達の様子や島の歴史、地理などが影の主役となっています

非常に面白い小説で最終章4作目の最後は思ってもみなかった展開に
ここでこう来るか・・・と・・・
インパクトの強いクリーブスの取った最後にやりきれない思いが
しばらくは募りましたが
これで完結では・・・と思ってくれた作者のクリーブスが
本国では何と！5作目が出版されたらしい、とのこと

この翻訳を非常に期待したい一作となっております


そんな北の果て
シェットランドのニットの本

旅にもつながるガイドブックにもなる
見ているだけでも楽しくなる、
その場所へ行ってみたくなる本となりました

冷え込む前のこの季節の夜長に
遠い北の諸島、シェットランドの風を感じるのは
いかがでしょうか？

















miro press編　発行元　株式会社誠文堂新光社　各￥1,900＋税　2012年及び2013年10月初版

この2冊の本の編者・山喜多佐知子さんは
2冊共編集後記にこう書かれていらっしゃいます

“前略・・ニットの専門家はおろか、編み物上手でもありません・・
・・中略・・ほとんどがシェットランド本当で撮影された作品や風景の写真から、
比類なきパターンニットを育んだ風の島、
暮らしと空気を感じていただければ幸いです・・・”


この言葉通りに私自身がこの1冊から
編者山喜多さんの思い通り
シェットランドの風や空気にすっかりと魅了されてしまいました



鉄器時代に作られた石の塔“ブロッホ・オブ・ムサ”
wikipediaより
シェットランド諸島にはこのような遺跡が数多く残されています



“風の島”と称えられるようにアン・クリーブスの小説からも
常にその吹き荒れる風はこの島を取り囲んでいます

本土スコットランドからは海上170kmも離れたこの諸島は
大小それぞれ100以上の島から成り立ち
15世紀まではノルウェーの支配下でもあり、
現在もスカンジナビア文化が色濃く残った地域でもあります


現在でもこの諸島に住む人々の父、母の先祖は
スカンジナビア人という確率が高く
そんなことからも英国・スコットランド文化よりも
そのニットに見られるデザインも北欧風であることは否めないのかと思います



シェットランドセーター　
ニットデザイナー　ウィルマ・マルコムソンさんの作品


私達日々目にしていたシェットランドセーターが
この本を通して、そのニットデザインの美しさ、多彩さ、機能性、
島の歴史と文へと改めて興味を持たせてくれました











元々シェットランドに生息する動物として
1番親しまれているのは
「シェットランドシープドッグ/通称シェルティー」ではないでしょうか？



左はシェルティー、右はボーダーコリー


上の写真からも解るように
シェットランド諸島産のシェットランドシープドッグの愛らしさは
従来のコリー種の中でも小型、ということもあり
私達の国でも家族の犬種として高い人気を誇っています


このシェットランド諸島の動物達は
その厳しい自然から食糧も少ないため
我が身を小型にして生き抜く手段として
このシープドッグのみならず馬、
そしてニットの原料となる羊も同種類の中では
進化し小型になった、ということです



シェットランドホースも小型
wikipediaより



シェットランドシープ


特にこのシェットランドシープはこの島の中では
殆ど野生で育ちタフな生活をしています

そんな彼らのアンダーコート（下毛）がシェットランドヤーンの原毛になります

よく日本の市場でも「シェトランドセーター」と呼びますが、
本物のシェットランドニットは
飛び切りしなやかで柔かく、「はり」と「ふくらみ」に富んでいるそうです

島の羊たちの毛質が良い、と云われるのは
草だけでもなく、海藻を食べるため、とも言われているそうです



“黒子さん”“白子さん”のようなシェットランドシープ


私がこの2冊から改めて驚いたのは
英国でも日本でも『シェットランドセーター』と言われると
比較的無色系の柔かいセーターをよく目にしています




国内でも良く目にするシェットランドセーター



しかし、この本の表紙でもお気づきのように
非常に多色使いの色鮮やかなデザインが
シェットランドニットして紹介されています



色鮮やかな細かいデザインのシェットランドセーター



しかも、多色であるばかりではなく
非常に細かい編みこみデザインは北欧の影響が残る
「フェアアイル」と呼ばれる技巧だそうです

この諸島に編み物が伝わったのは
中世後半、元々は北欧の海を行き来する
漁船や交易船により、とされています

その後19世紀には
「1段につき2色以下の色」で「XOX形」のモチーフを編んでいく、という
独特なシェットランド編みが「フェアアイルニット」の名前で
その名のとおりシェットランド諸島のメインアイランドから南西40km離れた小さな島
人口約70名ほどのフェア島から伝わってきました



家族の生活の中で伝わってきたニット技巧


その後1923年にプリンス・オブ・ウェールズが、
ゴルフの聖地セントアンドリュースのゴルフ場
そのシェットランドの編みこみニットを着用

それから「フェアアイルニット」の名前が広く知らせるようになったそうです

そんな歴史あるこのニットはこの本のページをめくるごとに
可愛らしい技巧を施したデザインのニット製品が満載です



シェットランドニットのミトン


本の中のニット製品をご紹介できないのがとても残念ですが、
「シェットランドの小さなニット」からは
“手のひらサイズのポシェット”、“しっぽのあるキャップ”
“グラデーションのリストウォーマー”、“キャップ付き手袋”
“ナチュラルカラーのハンドウォーマー”と
このタイトルを見ていただくだけでも
可愛らしさがぎゅっと詰まった本であることを感じ取っていただけると思います

　　
左はハンドウォーマー、右はしっぽのあるキャップ

本からの抜粋ではありませんが、
細かい技法と独特な色使いは従来の英国ものとは違います

「シェットランドのたからものニット」は
“とっておきのベレー帽”、“2ウェイ・ハンドウォーマー”、
“風車模様のキャップ”、
“ミュージアムのとんがり帽子”、“ミュージアムのエッグ・ウォーマー”、
“貝模様のレーススカーフ”、そして“シェットランド旅行のススメ”



　　
左は風車模様のキャップと同じデザイン、右はミュージアムのとんがり帽子と同じデザインです

様々な色の組み合わせが数えきれない程あり、
ニッター達の個性が良く出ています

そして、この新しい2冊目の本は程半分くらいのページに
シェットランド諸島の紹介になっており、
四季折々の島の写真は見事です

しかし、そこは旅行ガイドブックではありませんので、
副題にある“フェアアイルの小物と伝統の棒編みレース”とある
この棒編みレースがとてもお洒落な作品ばかり
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　


蜘蛛の巣レース“アンスト島”

シェットランド諸島のレースは通常は木綿、絹だそうなのですが、
ここではシェットランドヤーンのウールを使っています

このレース編みはシェットランド諸島の最北の島アンスト島が名高く、
15世紀からハンザ商人オランダ人が寄港して
手編みの靴下などが取引されていた、という記録があるそうです

何故、このアンスト島にレース編みが盛んになったのか？は
実際には不明だそうですが
1839年にこの地を訪れたロンドンの実業家により
初めて紹介されたことも大きな要因になった、とのこと

その後1851年のロンドン・クリスタルパレスで行われた万国博で
シェットランドニットが賞をもらい俄然注目を浴びることとなりました

それに続きアンスト島では紡ぎ手、編み手が育っていくこととなります



シェットランドレースのベビー服をきたあかちゃん


本書ではこのウールのレースを使った長めの手袋、
イブニング・グローブやショールなど
布では表現できない繊細さがとても美しい作品として挙げられています



レースのショール


最後はメインランド島の西側に位置する小さな島
バラ島からリサイクルから生まれたテディベア
BURRA　BEARS


バラ島で生まれたBURRA　BEARS


着られなくなったセーターから生まれたベアです

現在は古いセーターだけでは足りず
地元カレッジが備える巨大ニッティングマシーンからの
不良品を使うようになった、とのこと

元々捨てられるニットを救い出して、新しい命を吹き込む

そんな島のニッターさんには大きな賞賛が集まっているそうです








本書はそれぞれの作品を紡ぐニッターさん達を実名でご紹介しています

彼女達の作り出す作品全てはこの島の女性達から伝わってきたこの地の文化です

原料になる羊からその羊を世話するシープドッグ、
そして農場には欠かせない労働力としての馬など
一つとして欠けてしまったら・・
この芸術品は生まれなかったでしょう

そして、この島の風

風があるから人は暖かい衣類を必要とします

そんなことを考えながらこの本書から
改めて北の諸島シェットランドへ無性に行きたくなるのです














このページでのご意見、ご感想をお待ちしております

少しでも楽しんでいただければ嬉しいです

Top New ページのTop