今月のお薦め本







  2017年 4月 


以前からずっと気になっていながらも
「読めなかった」本というのは
必ずしも数冊あると思います

その中でも「読みたいけれど」
“読めなかった”という本もあるかと思います

そういう1冊に数年経ってめぐり会え
何故か呼ばれて・・やっと読むことができました

そんな本が今日ご紹介したい1冊です










:: ボブという名のストリート・キャット ::

A Street Cat Named Bob


ボブという名のストリート・キャット

ジェームズ・ボーエン著 服部 京子訳 発行所 辰巳出版¥1,600+税 2013年12月20日発行



この本は猫好きには一瞬で目が奪われる表紙をしています

利発そうな全身茶トラの猫
これがタイトルのボブ

しかし、正直“この手の本”は
すでに数え切れないほどの消えていった
多数の本があると思います



本国イギリスで2012年に出版された時、
数多い猫物の本の中で
数年後に映画化され
尚且つ今までの猫本とは一線を期しているのは
書き手である
ジャームズ・ボーエンのプロ作家ではない、
ドロップアウトしてしまった今の若者の一人

そんな彼の語り口調は
世界共通の人々に
共感できるものが沢山あったからだと思いました

しかし、その中にも彼が冒頭から最後まで伝えたかった
“セカンドチャンス”という一言が
多くの人々の心に残ったことも大きな要因だと・・・






例えば、ロンドンを歩いていると
様々な人々と行き交います

私達のように遠い国からの旅行者であったり、
そこに住む人々だったり、と
様々境遇の人達とすれ違います

しかし、その中で時折目にするのは
普段目に入っていない
「家の無い人々」に
妙に気づくことがあります




東京でも時折問題になることもありますが、
旅に出るとロンドンのような大きな町など
以外と目についてしまうことが多々あります

そして、私がめずらしさからも
つい目が行ってしまうのが
犬を連れた路上に座っている人達です

こちらの犬は本当に従順で
人に寄り添っていて
とても静かです



また、それぞれの国の認定により
一言で言う「ホームレス」という定義が
まったく違うことに
この本から知りました

書き手であるジェームズは
イギリス、ロンドンではこの「ホームレス」に認定され、
更に麻薬中毒患者更生プログラムを受けている身

その彼が1匹の猫
ボブに出会ってから
人生が変わっていく様子を描いたのが本書です





そして、「出会い」から始まる、1番大切な言葉
“セカンドチャンス”は
ここからスタートします

・・・われわれ全ての人間には、毎日のように
セカンドチャンスを与えられている。
なのに・・・・中略・・みずみず逃している、と。


2007年3月のとある木曜日
まだ身を切るような寒さのロンドンで
ジェームズと怪我をしたボブは出会います


最初の1ページを読み始めた時、
次々に出てくる単語の数々が馴染みのあるものでした

コヴェント・ガーデン、
ロンドン北部のトッテナム、バスキング、テイクアウトのカレー、
チャリティーショップで買った白黒テレビ・・

これは私にとっては全てロンドンを連想させる単語

そして、文体の中での「ぼく」はジェームズ本人で
「ぼく」から見たボブとの生活から気持ち、行動までが
この1冊を読み進んでいくにあたり
せっかくボブと出会っても
自分の境遇から逆にボブを遠ざけようとする辺り
悲しい気持ちになってきます

怪我が治ったら離れていくだろう・・と・・・


ホームレスの身で
更に麻薬中毒患者更生プログラムを受けていたこと、
子供時代に両親の離婚から
母親と一緒に暮らす生活はイギリスとオーストラリアを
転々とした家庭で育ち、
自分の立ち位置が決められず、
学校でもいじめられるようになったこと




そして、単身ロンドンへ戻り
親戚や別れて暮らしていた父親との家庭で
うまく折り合いが付けられず
結局はたった一人で生活をせざるをえなくなった経緯が
徐々に明らかになっていきます

ボブを幸せに出来ない、
彼にも選ぶ権利がある・・という
見事にこの国におけるペット事情が理解しているだけに
今の自分ではボブには相応しくない、と考えてしまいます


猫には安心した家族が必要



ペット事情はそれぞれのお国より
異なることは大体解っていました

以前Bath近郊の動物レスキューセンターへ偶然訪れた後に
帰国して調べたところ
イギリスにはペットショップはなく、
このようなセンターで保護された猫か、
もしくはブリーダーからの購入が一般的

そして、共通していることは
受け入れる家庭の審査がとても厳しいことも
その時に知りました

バースの犬・猫施設
以前偶然訪れた猫と犬の家族を待つ施設
こちらで猫と犬を家族に迎えたい、という人々との間を取り持ちます



家族を待つ施設の猫達  家族を待つ犬
家族を待つ猫達と犬達
それぞれの個性を重視した居場所を作り
大切にしてくれる家族を待ちます



ジェームズのように野良と思われたボブを家族に迎えるには
しっかりとした家庭で受け入れる、という前提があります

本人もホームレスで政府から保護を受けている身

しかし、動物愛護の国と称されるイギリスでは
無料で診察をしてくれる団体有、
去勢手術有、という制度があるそうです
(但し、本書から薬代は別料金、だそう・・
これにジェームズは有り金の殆どを薬代にしてしまいます)
*日本でも各自治体により避妊出術の補助が出ます*



勿論、その制度を受けたい人は後を絶たず、
医師に診てもらうまで4時間半も待たされ、
そして、家族としての猫はGPS機能のついた
マイクロチップ装着が義務付けられてるため
こちらも勧められてしまいます
(これは有料、高額!)

まだまだ日本ではこのマイクロチップ装着は
数パーセントのみだけで
千葉県では去勢手術の補助を受ける際に
このマイクロチップ埋め込みも希望すると
同時に補助申請に通ると補助が出ます

グロッグス・ショップのキッコー約10年前
ウェールズのGrrogsShopの家族の一員
猫のKICCO
しっかりとお客さんへのご挨拶も出来ました!



今回この本からも改めてイギリスの猫事情も
よく解りました

ですから、たま〜に見かける
路上での猫達もきちんとカラーをつけているのですね!



マーガレット宅の近くで見かけていた
人懐っこい子猫




また、今回改めてホームレスの人たちに対しての
救済処置もお国によって違うこと

ジェームズは紆余湾曲の末
ロンドンで寝る場所すら失うわけで
路上で1年近く生活していました

イギリスでは寝る場(家)のない人々の救済処置として
「ホームレス認定」をすれば
そのような境遇の人たちへ保護場所を提供し、
(これもおそらく行っている国は多いでしょう)
アパートまで斡旋してくれる、
家有ホームレスというのは
余り日本では聞いたことがありませんでした
(もし、ありましたら不勉強で申し訳ありません)





そして、同じく麻薬中毒から更生しようというプログラムを
受けることへの保護もありますが
決められた治療には勿論必ず受けることは
当然のことながら・・・

そして、ジェームズの場合はその更生プログラムを受けながら
食費などは自分で稼がなければなりません

ここでちょっと英国における
ジェームズ時代のホームレス事情に関するページを見つけました

「屋内に暮らすホームレス」とは・・・?
なかなか興味深い記事でした




その日暮らし、自分自身が毎日精一杯の生活の中で
猫1匹、とはいえ
「幸せにできない」という気持ちの葛藤の末
ボブも自分を選んでくれた、
当然自分もそうしたい、そうでありたい、という思いから
一念発起をします

この思いがジェームズにとっては
大きな転機
「セカンドチャンス」に繋がっていきます

ボブと一緒にバスキング
路上演奏二人組み
ボブとのハイタッチは彼らの絆の証です



彼のこの当時の仕事は「バスキング」

日本では耳慣れない言葉ですが、
ロンドンに居ると必ずどこかで目にする
即興演奏=路上、地下鉄構内などで演奏をする

余談ですが、ロンドンの地下鉄構内での
演奏はオーディションがあり、
この審査に合格した人達でないと
演奏活動は出来ません


様々なジャンルのミュージシャンが楽しませてくれますが、
難関らしいです


路上ですから、天候、人の動き
毎日が安定した収入を得られるとは限りません


ジェームズはそれでも人の多く集まる
コヴェント・ガーデンの路上で
ギターと歌のバスキングで生計を立てていました

しかし、ご承知の通りコヴェント・ガーデンは
常に大道芸人、人間銅像、ミュージシャン、と
日本では余り見られないくらい
沢山の人達が芸を披露している場所

コヴェント・ガーデンの大道芸人を見る群衆
コヴェント・ガーデンのこの広場では
大道芸人が人を集めています



これも本書で知ったのですが、
コヴェント・ガーデンでは様々な種類の芸を披露する人達が居るので
芸の種類によって場所を分類しているそうです

しかし、人の集まる場所でなければ
日銭を稼ぐことが出来ず、
彼は決められた場所以外で毎回ひやひやしながら
バスキング活動をしていきます

当然そんな危ない橋は長続きするはずもなく、
また、妨害も多く
ボブとの生活のために
何とか地に足のついた安全な仕事を考え、
そして、ロンドンで必ず見かける
「Big ISSUE」の販売を始めようとします

このBig ISSUEは日本にも上陸して
現在は知る人も多くなりました

ジェームズはこの雑誌を売って生計を立てようとします

ここまでが本書の半分くらいまで進んだところです

このBig ISSUEを売るまでの経緯は
ボブとの生活が始まり、
イギリスへ来た目的などが語られ
徐々に生活が変わっていく様が語られていきます

ボブを連れての路上演奏に
世界中の観光客が集まるロンドンで
沢山の国から来た観光客が自分の国の言葉で
猫(ボブ)という単語を教えてくれます

中国の「マオ」
日本の「ネコ」

実際にボブはジェームズにとっては
“両手を挙げた”ねこだったのですね!

日本の観光客からは
招き猫、教えてもらったかな〜


両手挙げの招き猫



ボブは多くの猫とは違い
乗り物に怖がることもなく
バスの車窓に興味を持ちながら
ジェームズと一緒にいつも“出勤”しています

路上で音楽を演奏している時も
人ごみにも臆することなく
むしろ「宣伝部長」として
ジェームズの相棒として常に一緒に仕事をしていました

Big ISSUEを売る時も
肩乗りの得意なボブは他の同業者よりも
人目を引き
いまでは彼のトレードマークとなった
マフラーや洋服を着ることもできます

勿論、それらは全てボブへのプレゼントです


キャットフードや各種おもちゃ、マフラーなどなど・・


今まで「ぼく」一人だった時は
誰にも声をかけられることなく、
友人と呼べる人もなく、
勿論家族、にも縁のなかった彼には
ボブと言う家族を持ったことにより
人々からの声かけや善意、つながりを
徐々に持てるようになりました

決して一人では出来なかったことを
ジェームズ自身が忘れず、
ボブのために今まで時間がかかると言われていた
麻薬からの脱出を決意します

そして、決定打はオーストラリアの母の元へ
ロンドンの疎遠になった父の元へ

誰にも頼ることなく
ボブという家族を得て
普通に生きていく、ということを取り戻していきます

ジェームズとボブ



本書の最後に結んだ言葉は

誰にでも幸運は訪れるし、
必ずセカンドチャンスがめぐってくる

ぼくとボブが手にしたように。


全文はとても読みやすく、
これからどうなっていくんだろう・・・というわくわく感、
そして、ロンドンの地域が随所に現れてきます

そして、何よりも「ぼく」ジェームズが常にボブと対等に接していること

世話をしている、面倒を見ている、という気持ちではなく
ボブの意志を常に慮り
自分を変えようとした勇気に元気付けられます



INDEGOGOより




実は私が長い間この本を読めなかったのは
長年お世話になっている
ミセス・ハリガンの親友亡きジューンのお薦め本でした

2013年ジューンと最後になってしまった秋の渡英時

ミセス・ハリガン宅をその日の午後去ることになっていた私に
彼女はこの1冊を手に
「この本はとても元気が出るの
もうボブは最高!
真理子は猫が好きだから絶対にお薦め!!

これからもしコヴェント・ガーデンに行くなら
是非この2人を見てきて!」

で、行ってきました!

コヴェント・ガーデンのボブ
ボブ
マフラー猫に驚きました



人垣の中に居ました!ボブ!

何故かおにぎりが・・・
日本の方の差し入れでしょうか・・?

そして、マフラーをした猫も可愛いね〜と思いながら
さすが!ロンドン!
犬ばかりでなく、猫まで日本のにゃんことは違うわ〜と

うちの猫達もある程度は社交性がある方だと思っていましたが、
この路上での人ごみを恐れない子

そして、後から本で読んだように
この時私自身もボブに驚き、
ジェームズにまで目が行っていませんでした





その後帰国してからジューンのことがあるまで
この本のことは忘れていたのです

帰国してすぐに日本でも翻訳された本を読んで
ジューンに手紙をかけば良かったと・・・

翌年2014年の11月にジューンはあっという間に
天に召されてしまいました

今でもジューンとの最後になった
ちょっと掠れた彼女の声が耳に残っています

「この本はお薦めよ!」

ミセス・ハリガンから訃報の連絡を受けてから
最後のジューンの言葉や笑顔が
この本を見るたびに浮かんで
その後手に取る今回までの時間が私には必要でした

本国の本書




今年2017年夏に本書の映画版が
日本でも公開されるそうです
すでに本国イギリスでは昨年2016年の11月に本年度のシネマ賞にも輝きました

映画版
写真提供 sony 猫はボブ本人
ぼく、ジェームズは英国人俳優のルーク・トレッダウェイ




そして、続編の「ボブがくれた世界」
これから読みます!

日本翻訳第2弾



いつも明るくて、
元気な笑顔で出迎えてくれたジューンを思い出しながら・・・


全ての猫とロンドンが大好きな方に
是非お薦めしたい1冊です













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